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国内6大学が参加する欧州LHC加速器実験の国際共同実験チームが、 科学界のアカデミー賞「ブレークスルー賞」受賞の快挙 ~4月25日に東京大学で合同記者会見開催~

ポイント

  • 米国グーグル創業者らが設立した科学賞「ブレークスルー賞」が 4 月 5 日発表され、基礎物理学部門で、欧州合同原子核研究機構 CERN の大型ハドロン衝突型加速器 LHC を用いて極小世界の性質を解明した国際共同実験チームALICEなど4つのチームが共同受賞しました。
  • ALICE 実験は、受賞 4 実験の中でも独自で特徴的な視点から宇宙創生のシナリオや物質質量の起源などの根源的な謎に挑んでいます。ビッグバン直後の宇宙を充した物質状態「クォーク・グルーオン・プラズマ」の性質探究などを通じ、基礎物理学の限界を前例のない領域まで押し広げて、上記受賞に繋げました。
  • 世界 39 か国(2025 年 4 月 5 日現在)が参加する ALICE 実験には、日本から佐賀大学、筑波大学、東京大学、⾧崎総合科学大学、奈良女子大学、広島大学(五十音順)が正式参加し、これまでに延べ約 180 人が参画して、検出器開発から多様な物理解析まで中心的な立場で貢献しています。

概要

米国グーグル創業者らが出資するブレークスルー財団が主催する自然科学における国際的な学術賞「ブレークスルー賞」が 4 月 5 日(日本時間 4 月 6 日)に発表され、基礎物理学部門で、欧州合同原子核研究機構(CERN)にある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で行われている 4 つの国際共同実験が共同受賞しました(https://breakthroughprize.org/Laureates/1)。このうち ALICE 実験には、佐賀大学、筑波大学、東京大学、⾧崎総合科学大学、奈良女子大学、広島大学(五十音順)が正参加機関として、熊本大学、理化学研究所(同)が准参加機関として、多数の研究者と大学院学生を擁して参画しています。ALICE 実験は、ビッグバン直後の宇宙を充した物質状態「クォーク・グルーオン・プラズマ」の性質探究などを通じ、新粒子探索などを主目標とする ATLAS 実験や CMS 実験とは異なる角度から、基礎物理学の限界を前例のない領域まで押し広げてきており、LHC の 4 実験の中でも学術的に極めて重要な一角を占めています。

背景

ブレークスルー賞は、自然科学における国際的な学術賞で、「科学界のアカデミー賞」とも称されます。基礎物理学(2012 年創設)、生命科学(2013 年創設)、数学(2014 年創設)の 3 部門があり、2025 年の基礎物理学ブレークスルー賞を、欧州合同原子核研究機構(CERN)にある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で行われている 4 つの国際共同実験チームが受賞しました。

CERN は、スイス・ジュネーブ郊外に位置する世界最大規模の素粒子・原子核物理学の研究所です。欧州など 21か国のメンバー国により運営され、日本は米国や欧州委員会(EC)などと共に准メンバー国として貢献しています。

LHC 加速器は、2009 年に稼働を開始した世界最大かつ最高衝突エネルギーの粒子加速器です。陽子や原子核を時計回りと反時計回りの 2 つのリングで各々加速し、4 か所の衝突点で衝突実験を行っています。2012 年には素粒子の質量起源を説明するヒッグス機構の証拠となる新粒子を発見し、その存在を予言した 2 名の理論物理学研究者にノーベル物理学賞が授与されました。

国際共同実験研究 ALICE は、LHC における 4 大実験の一つで、中でも唯一、原子核と原子核の衝突実験による素粒子(クォーク、グルーオン)多体系の研究に焦点を当てている点が特徴です。これらの素粒子は通常は単独で存在できず、高エネルギー原子核衝突は、これらが解放された状態をビッグバン直後に存在した「火の玉宇宙」以来 138 億年ぶりに再現できる地上で唯一の方法です。日本の研究グループは当該分野に 1970 年代から長い歴史を持ち、2000 年代初頭の米国における先行加速器でのクォーク・グルーオン・プラズマ発見などにも中心的役割を果たしてきました。

研究成果の内容

今回受賞した LHC の国際共同実験は ALICE、ATLAS、CMS、LHCb の 4 つです。周長 27 km の地下トンネルの中を時計回りと反時計回りに陽子や原子核の亜光速ビームを回す LHC において、4 か所の衝突点の各々で実験を行っています。総計 70 か国以上から数千人の研究者が参加しており、2015年から 2018 年の LHC 第 2 期運転で取得したデータに基づき各実験が 2024 年 7 月までに執筆した論文の成果が受賞評価対象となりました。4 実験の授賞理由は「質量生成の対称性破れのメカニズムを実証するヒッグス粒子の特性の詳細測定、強い相互作用をする新粒子の発見、稀少プロセスと物質反物質非対称性の研究、最も短い距離と最も極端な条件での自然の探究」です。

ALICE 実験は、ビッグバン直後の数マイクロ秒間の宇宙を充していた非常に高温で稠密な物質状態であるクォーク・グルーオン・プラズマの研究に随一の強みを持ち、上記のうち「最も短い距離と最も極端な条件での自然の探究」を先導しています。受賞した 4つの国際共同実験の中で唯一、原子核と原子核の衝突実験に特化して設計した大型検出器 ALICE を使う実験です。世界 39 か国からの研究者約 2,000 人で組織し(2025 年 4 月 5 日現在)、日本からも下記 6 大学が正式参加し、これまでに延べ約 180 人が参画して、ビッグバン直後の宇宙を充した「火の玉宇宙」の性質や、宇宙進化の過程を明らかにするべく研究を進めています。また全世界に跨るネットワーク計算の技術を用い、計算グリッド地域拠点(Tier 2)を広島大学に設置・運営して、取得したデータから物理を引出すために必要なシミュレーション計算を中心に、計算資源の面でも ALICE 実験に貢献しています。個人の活躍としても、実験現場統括者、複数の検出器責任者、トリガ運用責任者、複数の物理解析部会座長、さらに ALICE国際共同研究機関総会副議長をも輩出し、学術面や技術面からコミュニティー運営まで、主要な立場で大きく貢献しています。

佐賀大学は、2021 年から ALICE 実験に参加し、新規に導入する前方カロリメータ検出器(FoCal)の開発に携わっています。特に検出器の信号を整形して読出す電子回路の開発研究に取組んでいます。

筑波大学は、2006 年から ALICE 実験に参加し、ジェットのエネルギーを高精度で測定するカロリメータ検出器(EMCAL/DCAL)の建設・運用・測定・物理解析を主導しています。2030 年からの第4期運転では、FoCal 検出器の導入を主導し、カラーグラス凝縮と呼ばれる原子核中の高エネルギー状態やクォーク・グルーオン・プラズマの生成機構などを解明します。

東京大学は、2006 年から ALICE 実験に参加し、主飛跡検出器(TPC)および生成粒子の識別に用いる遷移輻射検出器(TRD)の開発・建設・運用を担当して、重クォーク、クォーコニウム、電子対の物理測定を主導しています。近年は、TPC 検出器の高度化やデータ収集系の高度化に尽力し、クォーク・グルーオン・プラズマの熱力学的特性や輸送特性などに迫る解析を進めています。

長崎総合科学大学は、データ収集効率を最適化するために重要なトリガ運用責任を担い、またFPGA 集積回路技術を駆使した TPC 検出器の大規模即時データ処理システムの開発に携わり、他に類をみない連続読出 TPC の実現に大きく寄与しました。

奈良女子大学は、2017 年から ALICE 実験に参加し、生成物質の集団運動の物理解析およびEMCAL/ DCAL 検出器の建設・運用・測定に携っています。FoCal 検出器の開発、物理シミュレーションによる測定手法開発、測定分解能などの性能評価にも貢献しています。

広島大学は、2006 年から ALICE 実験に参加し、初期には光子のエネルギーを高精度で測定する光子スペクトロメータ検出器(PHOS)、近年は μ 粒子の飛跡測定精度を飛躍的に高める前方 μ 粒子飛跡検出器(MFT)の開発・建設・運用・測定・物理解析を牽引しています。2022 年に開始した第 3 期運転からは MFT 検出器をフランスなどの研究機関と共同で導入・運用し、重クォークの挙動や物質質量の起源であるカイラル対称性などの解明を進めています。

なお、今回の共同受賞チームである ALICE 実験と ATLAS 実験などが合同で、4 月 25 日(金)午後に東京大学において合同記者会見を行います。

今後の展開

LHC での 4 実験は、極めて精緻な測定を通して、基礎物理学の知見を前例のない領域まで押し広げてきました。今後も引続き LHC および実験自身をさらに高度化して、世界最先端の研究を継続します。ALICE 実験に参加する日本グループも、新規検出器の開発建設から多様な物理解析までを国際的な協力と競争の中で主要な立場で推進し、同時に 2036 年以降に予定する ALICE 3 計画に向けて高精細量子半導体検出器(MAPS)を用いる新検出器開発にも注力しています。これらの研究活動を通し、極初期宇宙状態の解明を通した宇宙創生シナリオの完成や物質質量起源の実験的検証など、基礎物理学の最前線を引続き開拓していきます。

ALICE 実験は、受賞賞金総額 300 万ドル(約 4.5 億円)のうち 50 万ドル(約 7,500 万円)を配分され、次世代を担う若手研究者の教育支援に役立てるとしています。

参考資料

お問い合わせ先

本報道発表は、佐賀大学、東京大学、⾧崎総合科学大学、奈良女子大学、広島大学(五十音順)による共同発表です。

受賞の内容に関すること

広島大学:大学院先進理工系科学研究科/WPI-SKCM2 教授 志垣賢太
 Tel:082-424-7377 Fax:082-424-0717
 E-mail:shigaki@hiroshima-u.ac.jp

佐賀大学:理工学部 准教授 房安貴弘
 Tel:0952-28-8536 Fax:0952-28-8547
 E-mail:fusayasu@cc.saga-u.ac.jp

筑波大学:数理物質系 教授 中條達也
 Tel:029-853-4221 Fax:029-853-6618
 E-mail:chujo.tatsuya.fw@u.tsukuba.ac.jp

東京大学:大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター 准教授 郡司卓
 Tel:048-464-4191 Fax:048-464-4554
 E-mail:gunji@cns.s.u-tokyo.ac.jp

長崎総合科学大学:大学院工学研究科 教授 大山健
 Tel:095-838-5192 Fax:095-838-5105
 E-mail:oyama@nias.ac.jp

奈良女子大学:研究院自然科学系 准教授 下村真弥
 Tel:0742-20-3484 Fax:0742-20-3484
 E-mail:maya@cc.nara-wu.ac.jp

広報に関すること

広島大学:広報室
 Tel:082-424-3749 Fax:082-424-6040
 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

佐賀大学:広報室
 Tel:0952-28-8153 Fax:0952-28-8921
 E-mail:sagakoho@mail.admin.saga-u.ac.jp

東京大学: 大学院理学系研究科・理学部 広報室
 Tel:03−5842−0654
 E-mail:media.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp

長崎総合科学大学:総務部 陣野純子
 Tel:095-838-5101 Fax:095-839-0584
 E-mail:shom@nias.ac.jp

奈良女子大学:総務課 広報・基金係
 Tel:0742-20-3220 Fax:0742-20-3205
 E-mail:somu02@jimu